【教師のための思想入門】デューイとアドラー編⑧|理念と人間はどう関わり合うの?—デューイの考える理想の力

教師のための思想入門

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民主主義を育む教育について語り合う中で、学校を「小さな社会」として捉え直す視点に気づいたことは。しかし新たな疑問が浮かび上がる—理想とは何か、そして理念は人間とどのように関わり合うのか…。


ことは:あつゆるさん、今日は研究授業の反省会があって…。

あつゆる:どんな様子だった?

ことは:「理想のクラスづくり」について話し合ったんです。でも、先生によって考え方が全然違って。

あつゆる:具体的には?

ことは:ベテランの先生は「規律と礼儀」、若手は「自主性と創造性」、ICT担当の先生は「デジタル・シティズンシップ」なんて…。(少し困ったように)この前、民主主義は違う考えを認め合うって学んだのに、でも実際には、みんなが違う理想を持ちすぎて、かえってまとまらない気がして…。

あつゆる:なるほど、その悩みとても大切だと思うよ。

ことは:(少し安心して)ほんとですか?

あつゆる:うん。この機会に、理念や理想って私たちの生活にどんな意味を持つのか、デューイの考えをもう少し深く見ていかない?

ことは:はい…。実は最近、気になる出来事があって。

あつゆる:どんなこと?

ことは:駅前の再開発の住民説明会に参加したんです。

あつゆる:へぇ、そこでも同じような問題を感じたの?

ことは:そうなんです。商店街の人は「歩行者天国こそ理想的」って言うし、大型店舗は「車での買い物客あってこその発展」って。

あつゆる:うんうん。

ことは:それに、高齢者の方は休める場所を求めるし、若い人は撮影映えするスポットを…。(ため息をつきながら)「理想の街」って、結局誰の理想なんだろうって。

あつゆる:(少し考えて)その説明会、最初から最後まで対立したまま?

ことは:いえ、それが不思議なんです。

あつゆる:どう変わっていったの?

ことは:具体的な問題について話し合ううちに、最初は「私の理想」「あなたの理想」って感じだったのが、だんだん「私たちの街」って言葉が増えていって…。

あつゆる:(うなずきながら)デューイはね、民主主義を「コミュニティ生活そのものの理念」として考えたんだ。

ことは:コミュニティ生活の理念?

あつゆる:うん。それは、1つの理想が他の理想を押しのけるんじゃなく、多様な理想が共存できる方向性を示すものなんだって。

ことは:(少し迷いながら)でも、理想に向かおうとすると、かえって対立が深まることもありませんか?

あつゆる:その懸念も、デューイはしっかり見つめていたんだよ。

ことは:どういうことですか?

あつゆる:だからこそ「現実から切り離された理想」を警戒した。むしろ彼は、具体的な問題に取り組む中で、少しずつ形を作っていくことの大切さを説いたんだ。

ことは:ああ!説明会でも、最初は抽象的な理想論で対立してたんです。

あつゆる:それで?

ことは:でも、具体的な課題—通学路の安全とか、お年寄りの買い物のしやすさとか—を話し合ううちに、みんなの意見が少しずつ重なり始めて…。

あつゆる:それは興味深いね。デューイは民主主義運動について、「ただ1つの明確な理念から始まったわけじゃない」って言ってるんだ。

ことは:でも…それって、理想がないってことですか?

あつゆる:むしろ逆なんだよ。デューイは「力強い願望と努力が生み出される」時に、初めてコミュニティは存在できるって。

ことは:どういうことですか?

あつゆる:みんなで共有する理想があるからこそ、コミュニティは動き出せる。でも同時に、その動きの中でコミュニティ自体も変わっていくんだ。

ことは:…あ!私のクラスでも、机の配置一つで似たような経験が…。

あつゆる:どんな風に?

ことは:「理想の教室」って考えてたけど、実際には授業の内容や季節で変えていって。その時々の課題に向き合いながら、みんなで話し合って…。

あつゆる:そして?

ことは:その過程で、クラスの雰囲気も変わっていって…。(はっとして)あれ?研究授業の反省会でも、先生たちが違う理想を語ったのは、それぞれの実践の中から見つけた大切なものだったんですね。

あつゆる:その通り。デューイは、民主主義の理念は多様な理想に方向性を与えるものだって。

ことは:家族、学校、地域社会…、それぞれの場所で?

あつゆる:うん。1つの理想を押し付けるんじゃなくてね。

ことは:(深くうなずいて)分かってきました。理想って、どこかにあらかじめ存在する完成形じゃないんですね。

あつゆる:うん。

ことは:(深くうなずいて)分かってきました。理想って、コミュニティの中で生まれ、現実に働きかけ、また新しい形を生み出していく…。不思議ですね…。

あつゆる:何が?

ことは:その変化の過程に、何か力が働いているような気がして…。説明会でも、クラスでも、みんなが少しずつ変わっていく。その動きを作り出しているパワーが不思議だと思って…。

あつゆる:(静かに微笑んで)そう、デューイはその不思議なパワーにも深い関心を寄せていたんだ。

ことは:そうなんですか!?(身を乗り出して)理想のもつパワーについて、もっと教えてほしいです!

[続く]