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民主主義を育む教育について語り合う中で、学校を「小さな社会」として捉え直す視点に気づいたことは。しかし新たな疑問が浮かび上がる—理想とは何か、そして理念は人間とどのように関わり合うのか…。
ことは:あつゆるさん、今日は研究授業の反省会があって…。
あつゆる:どんな様子だった?
ことは:「理想のクラスづくり」について話し合ったんです。でも、先生によって考え方が全然違って。
あつゆる:具体的には?
ことは:ベテランの先生は「規律と礼儀」、若手は「自主性と創造性」、ICT担当の先生は「デジタル・シティズンシップ」なんて…。(少し困ったように)この前、民主主義は違う考えを認め合うって学んだのに、でも実際には、みんなが違う理想を持ちすぎて、かえってまとまらない気がして…。
あつゆる:なるほど、その悩みとても大切だと思うよ。
ことは:(少し安心して)ほんとですか?
あつゆる:うん。この機会に、理念や理想って私たちの生活にどんな意味を持つのか、デューイの考えをもう少し深く見ていかない?
ことは:はい…。実は最近、気になる出来事があって。
あつゆる:どんなこと?
ことは:駅前の再開発の住民説明会に参加したんです。
あつゆる:へぇ、そこでも同じような問題を感じたの?
ことは:そうなんです。商店街の人は「歩行者天国こそ理想的」って言うし、大型店舗は「車での買い物客あってこその発展」って。
あつゆる:うんうん。
ことは:それに、高齢者の方は休める場所を求めるし、若い人は撮影映えするスポットを…。(ため息をつきながら)「理想の街」って、結局誰の理想なんだろうって。
あつゆる:(少し考えて)その説明会、最初から最後まで対立したまま?
ことは:いえ、それが不思議なんです。
あつゆる:どう変わっていったの?
ことは:具体的な問題について話し合ううちに、最初は「私の理想」「あなたの理想」って感じだったのが、だんだん「私たちの街」って言葉が増えていって…。
あつゆる:(うなずきながら)デューイはね、民主主義を「コミュニティ生活そのものの理念」として考えたんだ。
ことは:コミュニティ生活の理念?
あつゆる:うん。それは、1つの理想が他の理想を押しのけるんじゃなく、多様な理想が共存できる方向性を示すものなんだって。
ことは:(少し迷いながら)でも、理想に向かおうとすると、かえって対立が深まることもありませんか?
あつゆる:その懸念も、デューイはしっかり見つめていたんだよ。
ことは:どういうことですか?
あつゆる:だからこそ「現実から切り離された理想」を警戒した。むしろ彼は、具体的な問題に取り組む中で、少しずつ形を作っていくことの大切さを説いたんだ。
ことは:ああ!説明会でも、最初は抽象的な理想論で対立してたんです。
あつゆる:それで?
ことは:でも、具体的な課題—通学路の安全とか、お年寄りの買い物のしやすさとか—を話し合ううちに、みんなの意見が少しずつ重なり始めて…。
あつゆる:それは興味深いね。デューイは民主主義運動について、「ただ1つの明確な理念から始まったわけじゃない」って言ってるんだ。
ことは:でも…それって、理想がないってことですか?
あつゆる:むしろ逆なんだよ。デューイは「力強い願望と努力が生み出される」時に、初めてコミュニティは存在できるって。
ことは:どういうことですか?
あつゆる:みんなで共有する理想があるからこそ、コミュニティは動き出せる。でも同時に、その動きの中でコミュニティ自体も変わっていくんだ。
ことは:…あ!私のクラスでも、机の配置一つで似たような経験が…。
あつゆる:どんな風に?
ことは:「理想の教室」って考えてたけど、実際には授業の内容や季節で変えていって。その時々の課題に向き合いながら、みんなで話し合って…。
あつゆる:そして?
ことは:その過程で、クラスの雰囲気も変わっていって…。(はっとして)あれ?研究授業の反省会でも、先生たちが違う理想を語ったのは、それぞれの実践の中から見つけた大切なものだったんですね。
あつゆる:その通り。デューイは、民主主義の理念は多様な理想に方向性を与えるものだって。
ことは:家族、学校、地域社会…、それぞれの場所で?
あつゆる:うん。1つの理想を押し付けるんじゃなくてね。
ことは:(深くうなずいて)分かってきました。理想って、どこかにあらかじめ存在する完成形じゃないんですね。
あつゆる:うん。
ことは:(深くうなずいて)分かってきました。理想って、コミュニティの中で生まれ、現実に働きかけ、また新しい形を生み出していく…。不思議ですね…。
あつゆる:何が?
ことは:その変化の過程に、何か力が働いているような気がして…。説明会でも、クラスでも、みんなが少しずつ変わっていく。その動きを作り出しているパワーが不思議だと思って…。
あつゆる:(静かに微笑んで)そう、デューイはその不思議なパワーにも深い関心を寄せていたんだ。
ことは:そうなんですか!?(身を乗り出して)理想のもつパワーについて、もっと教えてほしいです!
[続く]