【教師のための思想入門】デューイとアドラー編④|民主主義の実現(後編)

哲学

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

▼ 前回の記事はこちら

ことは:えっ!?そんな…民主主義が崩壊するなんて…。私たちの社会は、そんなに危機的な状況なんですか?

あつゆる:そうなんだ。デューイの考える現代社会の問題点について、もう少し詳しく見ていこうか。

ことは:はい、お願いします。今のお話を聞いて、すごく不安になってしまって…。

あつゆる:デューイは、現代社会が「グレイト・ソサイエティ」に変化していく中で、「公衆」が消滅しつつあると危惧しているんだ。

ことは:公衆って…さっき説明してくれた、社会の問題に関心を持つ人たちのことですよね?どうして消滅しているんですか?

あつゆる:社会が複雑化・多様化して、1人1人の行動が及ぼす影響の範囲が広がっている。さらに、IT の発達で人と人とのつながりも見えにくくなっている。結果として、自分たちの行動が社会にどう影響しているのか、わかりづらくなっているんだ。

ことは:なんとなくわかります。SNS で何気なく発信したことが、見ず知らずの誰かを傷つけてしまったり。でも本人はそんなことに気づきもしない…みたいな?

あつゆる:そう、まさにそれ。そして、それだけ世界中の人と繋がれるのに、何年も住むマンションのお隣さんの顔すら知らない。そんな社会では、デューイの言う本当のコミュニケーションは発生しにくいし、結果として民主主義も実現されにくい。

ことは:その結果としてどんな問題が起きるんでしょうか?

あつゆる:例えば、地域の問題に無関心になったり、選挙の投票率が下がったり。あるいは、ネット上でのフェイクニュースの拡散なんかも、こういった問題の1つかもしれないね。

ことは:うわ、身近な問題ばかりですね…。じゃあ、もう民主主義は実現できないってことですか?

あつゆる:いや、デューイはそうは考えていない。むしろ、「より一層の民主主義」が必要だと言っている。

ことは:より一層の民主主義?どういうことですか?

あつゆる:デューイは、「グレイト・ソサイエティ」と区別して、「グレイト・コミュニティ」という理想を掲げている。これは、みんなが自分たちの行動の影響を理解し、責任を持って行動する社会のことだよ。

ことは:でも、さっきの複雑な社会の中で、そんなことできるんですか?

あつゆる:難しいけど、デューイは可能だと考えている。彼は、たとえ社会が巨大化しても、直接的な交わりの中で生まれる生き生きとした対話を忘れてはいけないと言っているんだ。

ことは:対話?またコミュニケーションの話ですか?

あつゆる:そう、デューイにとってコミュニケーションは本当に重要なんだ。彼はこう言っているよ。「民主主義とは、自由で、充実した交流のある生活につけられた名前」だって。

ことは:へぇ、でもそれってすごく理想的じゃないですか?現実的なのかな…。

あつゆる:確かに理想的に聞こえるね。でも、デューイは身近なところから始めるべきだと言っているんだ。「隣人たちのコミュニティ」が出発点になるって。

ことは:隣人…。

あつゆる:そうだね。世界平和のためには外国の人々を理解することが必要だって言われるけど、まずは身近な人を理解し愛することが大切だよね。

ことは:なるほど…。でも、社会はどんどん変化していきますよね。そういう中で、昔ながらのコミュニティなんて作れるんでしょうか?

あつゆる:いい質問だね。デューイも社会の変化は止められないって認識している。でも、彼は昔に戻るか、それとも機械化された社会か、という二者択一の問題じゃない。大切なのは、変化し続ける社会の中で、新しい形の民主的なコミュニティのあり方を絶えず模索し続けることなんだよ。

ことは:なるほど…。日々の生活の中で、1人1人が周りの人とのつながり、本当のコミュニケーションを大切にしながら、少しずつ輪を広げていく。それが、デューイの言う「グレイト・コミュニティ」そして、民主主義の実現につながっていくのかもしれませんね。

(続く)

著:ジョン デューイ, 原名:Dewey,John, 翻訳:齊, 阿部
¥1,540 (2024/09/25 21:22時点 | Amazon調べ)
参考文献
Dewey, J. (1927) The Public and its Problems. In: Boydston, Jo Ann (ed) (1984) Collected Works of John Dewey, The Later Works, 1925-1953(2): 235-372. Carbondale: Southern Illinois University Press.=(2010)『公衆とその諸問題』 植木豊訳 ハーベスト社