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あらすじ
教員3年目のことはは、「個」と「協働」の両立に悩み、本屋「あつゆる書房」の店主あつゆるに相談を持ちかけた。あつゆるは、この問題に取り組んだ思想家としてジョン・デューイを紹介。ことはは『民主主義と教育』を購入し、チャレンジしたものの…。
数日後、ことはは再びあつゆる書房を訪れた。
ことは:あつゆるさん、こんにちは。『民主主義と教育』、読んでみようとしたんですが…(苦笑)
あつゆる:おや、ことはさん。どうだった?難しかった?
ことは:はい…。正直、途中で挫折しちゃいました。でも、パラパラとめくって、いくつか気になる部分は読んでみたんです。
あつゆる:そう、なかなか難しい本だもんね。でも、少しでも読んでみてくれて嬉しいよ。何か印象に残ったことはある?
ことは:はい。デューイさんの考える民主主義って、単なる政治の仕組みじゃないんだなってことは分かりました。でも、具体的にどういうことなのか、よく理解できなくて…。
あつゆる:なるほど。よく気づいたね。じゃあ、今日はデューイの民主主義の考え方と、その実現方法について、もう少し詳しく見ていこうか。
ことは:はい、お願いします!でも、難しい話になりそうですね…。
あつゆる:大丈夫、一緒に考えていこう。デューイは1927年の『公衆とその諸問題』という本で、民主主義を実現するには「公衆」が必要不可欠だと言っているんだ。
ことは:公衆…ですか?選挙の時に投票に行く人たちのことですか?
あつゆる:そういう意味も含まれるけど、デューイの言う「公衆」はもっと広い意味なんだ。例えば、町内に大型スーパーができるとしたら、どんな影響があると思う?
ことは:うーん…。便利になる反面、地元の商店街が寂しくなるかも。あと、交通量が増えて環境への影響も…。色んな人に影響がありそうですね。
あつゆる:そうだね。その影響を受ける人たち全体が、デューイの言う「公衆」なんだ。直接関係なさそうでも、間接的に影響を受ける人たちも含めてね。
ことは:あ、なるほど!でも、そういう「公衆」が存在するだけで民主主義は実現できるんですか?なんか物足りない気がします。
あつゆる:いい指摘だね。デューイもそれだけでは不十分だと考えていたんだ。彼は「コミュニティ」と「コミュニケーション」も重要だと言っているよ。
ことは:コミュニティですか…。(少し考えて)あ、私、最近オンライン上の教育者コミュニティに参加してるんです。それって関係あるかもしれません?
あつゆる:おっ、面白い例だね!そのコミュニティで、どんなことをしてるの?
ことは:教育に関する情報交換をする場なんです。みんなで悩みを共有したり、授業のアイデアを出し合ったりしています。でも、オンラインだと顔が見えないから、本当の意味でのコミュニケーションは難しい気もします…。
あつゆる:そこに気づいたのはすごいね。デューイも「コミュニケーション」の重要性を強調していて、それは単なる情報交換以上のものなんだ。
ことは:へぇ、どういうことですか?
あつゆる:デューイは、お互いの考えを共有して、一緒に学び合い、成長していくプロセスをコミュニケーションと呼んでいるんだ。
ことは:なるほど…。でも、現代社会でそんな深いつながりを持つのは難しそうですね。みんな忙しいし、SNS での浅いつながりで満足してしまいがち…。
あつゆる:そうだね、それがまさに現代社会の大きな課題なんだ。デューイはこの状況を「グレイト・ソサイエティ」と呼んで批判しているんだよ。
ことは:グレイト・ソサイエティ?名前は素敵に聞こえますけど、どんな問題があるんですか?
あつゆる:そうなんだ。名前は格好いいけど、実際は人々のつながりが薄れて、自分たちが社会に与える影響にも気づきにくくなっている状態のことを指しているんだ。
ことは:あ…。確かに、私も含めて、みんなそうかもしれません。スマホばかり見ていて、隣に住んでいる人のことも知らないし…。
あつゆる:実はデューイは、このような「グレイト・ソサイエティ」の状態では、真の民主主義は実現できないと厳しく指摘しているんだ。彼によれば、このままでは公衆は消滅し、民主主義の根幹が崩壊してしまうかもしれないというんだよ。
ことは:えっ!?そんな…民主主義が崩壊するなんて…。私たちの社会は、そんなに危機的な状況なんですか?
(続く)
参考文献
Dewey, J. (1927) The Public and its Problems. In: Boydston, Jo Ann (ed) (1984) Collected Works of John Dewey, The Later Works, 1925-1953(2): 235-372. Carbondale: Southern Illinois University Press.=(2010)『公衆とその諸問題』 植木豊訳 ハーベスト社