▼ 前回の記事はこちら
あらすじ
新人教師のことはは、「個」と「協働」の両立に悩み、本屋「あつゆる書房」の店主あつゆるに相談を持ちかけた。あつゆるは、この問題に取り組んだ思想家としてジョン・デューイを紹介。デューイの著書『民主主義と教育』を手に取ったことはは、そこに書かれた「民主主義」の概念に興味を抱く。それは単なる政治制度ではなく、人々の「共同生活の一様式」だという。果たして、デューイの思想は現代の教育問題にどんな示唆を与えてくれるのか…。
あつゆる:(本棚から一冊の本を取り出しながら)ほら、これがデューイの『民主主義と教育』という本だよ。
ことは:うわ、なんだか難しそう…。専門用語がいっぱいですね。
あつゆる:確かにね。最初は少しとっつきにくいかもしれない。でも、教育の本質や、人間の成長について、深く書かれた本なんだよ。
ことは:へぇ…。でも民主主義って政治の話じゃないんですか?選挙とか国会とか…。
あつゆる:そう思うよね。実は僕も最初はそう思っていた。でもね、デューイの言う民主主義はもっと広い意味なんだよ。
ことは:えっ、そうなんですか?どんな意味なんですか?
あつゆる:デューイは民主主義を「共同生活の一様式」と呼んでいる。つまり、人々が一緒に生きていく方法のことだね。
ことは:共同生活の一様式?なんだか抽象的ですね。もう少し具体的に説明してもらえますか?
あつゆる:デューイは、社会は多様な小集団の集まりとして見ていて、その中でどう共に生きていくかを考えたんだ。例えば、世の中には家族、学校、会社、趣味のサークル、宗教団体なんかがあるよね。
ことは:あ、なるほど。確かに私も学校や部活、家族とか、いろんな集団に属してますもんね。でも、それが民主主義とどう関係するんですか?
あつゆる:いい質問だね。デューイは、これらの集団が民主的かどうかを判断する基準を2つ挙げているんだ。
集団が民主的であるかどうかを測る2つの基準
- 共有している関心がどれだけ多様か
- 他の集団とどれだけ自由にやりとりしているか
ことは:へぇ、面白い視点ですね。でも、関心が多様すぎたり、他の集団と仲良くしすぎたら、その集団の特徴がなくなっちゃいませんか?
あつゆる:鋭い指摘だね。確かにバランスは大切さ。でも、デューイが目指したのは、開かれた社会なんだ。例えば…ちょっと極端かもしれないけど、窃盗団という集団を考えてみよう。
ことは:えっ、窃盗団!?なんか怖い例えですね…。でも、確かにそれは閉鎖的な集団かも。
あつゆる:そうそう。窃盗団は盗みのことしか関心がないし、他の集団と自由に交流もできない。これはデューイの言う民主的な集団とは言えないんだ。
ことは:なるほど…。でも、あつゆるさん。世の中の集団って、多かれ少なかれ自分たちの利益を優先しがちじゃないですか?完全に開かれた集団なんて、現実にあるんでしょうか。
あつゆる:デューイも、完全な理想形を求めているわけじゃない。彼は「相互の関心を社会統制の一要因として確認することにより深い信頼をおく」って言っている。
ことは:うーん、また難しい言葉が…。社会統制ってなんですか?
あつゆる:簡単に言えば、お互いの違いを認めつつ、相手のことを気にかけることで、社会のまとまりが生まれるってことかな。
ことは:そうですか…。でも、現実の社会でそんなことができるんでしょうか。みんながみんな、他人のこと考えてられないと思うんですけど。
あつゆる:確かに難しいかもしれない。でも、デューイはそういう社会を目指すことが大切だと考えた。そして、そういう社会では素晴らしいことが起こるって言ってるんだよ。
ことは:へぇ、どんなことですか?
あつゆる:デューイはこう言ってるんだ。「行動への誘因が偏っている限り抑圧されたままでいる諸能力が、多数の多様な接触点によって解放される」って。
ことは:えっと…、日本語で言うと?
あつゆる:(笑いながら)そうだね、ちょっと難しかったね。簡単に言えば、いろんな人と出会って、新しい考え方に触れることで、自分の中に眠っていた能力が目覚めるかもしれないってことなんだ。
ことは:なるほど。そこで民主主義が教育につながってくるわけですね!
あつゆる:お!ことはさん、さすが鋭いね。
ことは:いえいえ…。なんだか理想的すぎる気もしますけど、ちょっと面白そうです。この本、難しそうだけど、少し読んでみようかな。
あつゆる:それはいいね!きっとことはさんの悩みにもヒントがあると思うよ。
ことは:じゃあ、買ってみます。でも、わからないところがあったら、また聞いてもいいですか?
あつゆる:もちろん!いつでも相談に乗るよ。
ことは:ありがとうございます、あつゆるさん!難しそうだけど、頑張ってみます。
▼ 続きはこちら
参考文献
Dewey, J. (1916) Democracy and Education, An Introduction to the Philosophy of Education. In: Boydston, Jo Ann (ed) (1980) Collected Works of John Dewey, The Middle Works, 1899-1924(9) Carbondale: Southern Illinois University Press. =(1975)『民主主義と教育(上)(下)』松野安男訳 岩波文庫