『ちっちゃな ほわほわかぞく』(マーガレット・ワイズ・ブラウン)

絵本

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「ほわほわかぞくが いたってさ。あったかいんだ、こたつみたいに。ちっちゃいんだって、だれよりも」

手のひらに乗るほど小さいのに、心全体を包み込むような不思議なあたかさ。

ガース・ウィリアムズの柔らかなタッチの絵と、谷川俊太郎のリズミカルで詩情あふれる訳文が溶け合い、日常の何気ない瞬間に宿る幸せを静かに描き出します。

読む人の心にほんわり余韻を残す、小さな宝物のような1冊。

おすすめ年齢:2歳から

著:マーガレット・ワイズ ブラウン, イラスト:ガース ウィリアムズ, 原名:Margaret Wise Brown, 原名:Garth Williams, 翻訳:谷川 俊太郎
¥4 (2025/04/09 21:51時点 | Amazon調べ)


あらすじ

『ちっちゃな ほわほわかぞく』(原題:Little Fur Family、1946年)は、ぬくぬくの木に住む、だれよりもちっちゃな不思議な生き物「ほわほわかぞく」の1日を描いた絵本です。

好奇心いっぱいのほわほわかぞくの子どもは、ある日「ざわざわもり」へと出かけます。森では「ほわほわおじいさん」と出会い、「おだいじに」という言葉を覚えます。

川で泳ぐ「けがわを きていない」魚を眺め、空を飛ぶてんとう虫を見上げます。

そして森の奥で、自分と同じような「ちっちゃな ほわほわのなかま」と出会うのです。

冒険を終えて家に帰ると、ほわほわかあさんが待っていてくれます。

疲れた子どもはほわほわとうさんにおんぶされて寝床へ。

両親が手を握り合い、子守唄を歌ってくれる中で、子どもは静かに眠りにつく—そんな愛情に満ちた日常の1コマで物語は静かに夜へと溶けていきます。


小さな発見と大きな安心感

声に出して読むと、不思議と心が弾む絵本に出会いました。

 ほわほわ かぞくが いたってさ
 あったかいんだ こたつみたいに
 ちっちゃいんだって だれよりも
 ふかふか けがわを きていてね
 ぬくぬくの きに すんでいた

『あかいひかり みどりのひかり』に続き、マーガレット・ワイズ・ブラウンと谷川俊太郎のタッグが生み出した世界は、今回も特別です。

谷川さんは原著の英語表現を「ほわほわ」「ぬくぬく」「ざわざわ」といった日本語のオノマトペで見事に翻訳しており、読んでいると、思わず口ずさみたくなる心地よさがあります。

この時期の子どもは言葉の音やリズムに敏感で、耳に残った言葉を日常でも使い始めるようになります。だからこそ、こんな美しい言葉との出会いを大切にしたいものです。

この美しい言葉で語られるストーリーに目を向けると、大人の目からはただ小さな生き物が森で遊んで帰ってくるだけの物語に見えてしまうかもしれません。

でも子どもと一緒に読み進めるうちに、これこそが子どもの世界そのものだと気づかされました。

ほわほわくんが「さかなは けがわを きていない」と不思議そうに魚を見つめる場面。これは子どもが毎日の生活の中で出会う「なぜ?」の瞬間そのものです。

てんとう虫が飛ぶ様子を見上げる驚き、「ちっちゃな ほわほわのなかま」との出会い—これらはすべて、大人には当たり前すぎて見過ごしてしまう小さな不思議との遭遇です。

そして何より心に残るのは、冒険を終えて家に帰ってくるほわほわくんを待つ、あたたかな家族の姿。

ほわほわかあさんがつくってくれた夕ごはんを食べ、疲れた子どもをほわほわとうさんが寝床へ連れていく。

そして てを にぎってやって
うたを うたってやったってさ

小さな冒険とあたたかな帰り場所。子どもの幸せな1日が、この小さな絵本には詰まっています。

この穏やかな時間は、きっと子どもの心の中に長く残り続けるのではないでしょうか。




作者紹介

著者のマーガレット・ワイズ・ブラウン(1910-1952)は、100冊以上もの絵本を残したアメリカの児童文学界の巨匠。『おやすみなさい おつきさま』『ぼくにげちゃうよ』など、世代を超えて愛される名作の生みの親として知られています。

ブラウンの絵本には、大人がつい陥りがちな「これを教えよう」という意図がありません。その代わりに、子どもの目線で世界を見る驚きと発見に満ちています。

「けがわを きていない」魚への素朴な観察や、「ちっちゃな ほわほわのなかま」との出会いの喜びは、子どもが日々体験している世界との対話そのもの。

「子どもには子どもの見方がある」ブラウンはそう信じ、その視点から紡ぎ出す物語は、読む私たち大人の心も静かに解きほぐしていきます。

イラストを手がけたガース・ウィリアムズ(1916-2000)は、『大草原の小さな家』シリーズの挿絵でも知られる画家。彼の柔らかな線と温かみのある色彩は、ほわほわかぞくの愛らしさを完璧に表現しています。

そして、この絵本の魅力を日本の子どもたちに届けた功労者が谷川俊太郎です。

彼のリズミカルな訳文が作品の魅力を一層引き立てています。「ほわほわかぞくが いたってさ」という言葉の響きは、原文の音楽性を見事に捉え、声に出して読むと不思議と心が弾みます。


関連書籍紹介

マーガレット・ワイズ・ブラウンとガース・ウィリアムズによる、心温まる絵本をさらに2冊ご紹介します。

『うさぎのおうち』(訳:松井るり子/ほるぷ出版)

著:マーガレット・ワイズ ブラウン, イラスト:ガース ウィリアムズ, 原名:Margaret Wise Brown, 原名:Garth Williams, 翻訳:松井 るり子
¥1,430 (2025/04/09 21:09時点 | Amazon調べ)

春の光の中、こうさぎが自分の家を探す旅に出ます。さまざまな生き物との出会いを通して、最後に自分にぴったりの居場所を見つける物語。『ちっちゃな ほわほわかぞく』と同様に、小さな生き物の視点から見る世界の不思議とあたたかさが描かれています。

『まんげつのよるまでまちなさい』(訳:坪井郁美/ペンギン社)

著:マーガレット・ワイズ ブラウン, イラスト:ガース・ウイリアムズ, 翻訳:まつおか きょうこ
¥1,100 (2025/04/09 21:09時点 | Amazon調べ)

夜を見たことがないあらぐまの子が、「まんげつのよるまでまちなさい」というお母さんの言葉を受け入れながら成長していく物語。『ちっちゃな ほわほわかぞく』と共通する、子どもの素直な好奇心と、それを見守る親の優しさが心に残ります。