どでかい文字で「とべバッタ」。表紙いっぱいに描かれた、力強いタッチのバッタの絵。ページをめくる前から、何かとんでもないものに出会ってしまった予感がする。
田島征三作・絵『とべバッタ』(偕成社、1988年)は、ロックンロールの初期衝動に脳天ぶち抜かれるかのような、生の表現力と勢いに満ちた絵本である。
おすすめ年齢:3歳から
葉っぱの陰に1匹のバッタがいる。まわりには恐ろしい天敵がうじゃうじゃ。ヘビはにょろにょろ、カマキリはカマを振り回し、クモは網を張り巡らせている。次々に捕食される仲間たち。バッタは毎日びくびく暮らしていた。
しかし、バッタは こんなところで おびえながら いきていくのが、つくづく いやになった。
そうして、バッタは「けつい」して大きな石の上に堂々と座る。案の定、ヘビが現れ、カマキリが襲いかかる。でも、バッタは逃げない。力強く、跳ぶ。ヘビをへこまし、カマキリはバラバラに、クモは粉々になる。実に痛快である。とともに、親子で顔を見合わせて爆笑。
だが、本当にすごいのはここからである。戦いに勝ったバッタが大空に向かって跳躍すると、なんと雲まで届いてしまうのだ。しかし雲を突き破って最後、まっさかさまに落ちていく。カエルと魚が大きな口を開けて待つ、絶体絶命のピンチ。
その瞬間、バッタは生まれて初めて自分の4枚の羽を使うことを覚える。空を飛べることを発見するのだ。そして、バッタは高く高く飛んでいく。蝶やトンボに「みっともない とびかた」とバカにされても気にも留めず。
じぶんのはねで、じぶんのゆきたいほうへ、かぜにのってとんでいった。
ここ最近「できない」と駄々をこね、「まだ3歳だから無理」と言うことが増えてきた娘だが、バッタの姿に何かを感じ取っているのだろう。毎日「読んで」とねだってくる。
この絵本は説教臭くないところがいい。バッタが勇気を出す理由も、戦う姿も、飛べることの発見も、すべてが自然なのだ。全然押し付けがましくないのに、読み終わると大きな勇気をもらえる。
親として、子どもに特定の職業についてほしいという強い希望があるわけではない。でも、「どうせ自分は〜だから無理」と自分で可能性を制限するのではなく、積極的にチャレンジするたくましさは持ってほしい。そんな想いがあるからこそ、この絵本と出会えたことが嬉しい。
1940年生まれ、高知で育った田島征三は、第11回絵本にっぽん賞、第38回小学館絵画賞など数々の賞を受賞している。自然と向き合いながら創作を続ける作家で、1998年には伊豆高原に移住し、木の実など自然の素材を使ったアート作品も手がけるようになった。洗練より生命力を重視する、一貫した創作姿勢が伝わってくる。
こういう本とどれだけ出会えるかが、人生の背骨になっていく。娘もあのバッタのように力強く育ってくれることを願いながら、今日もまた絵本を開く。
▼ 田島征三 関連書籍
『ちからたろう』の絵を描いているのは、実は田島征三。

『ふきまんぶく』
『しばてん』